公務員を辞めようかと考えていることを周囲に話すと、
「公務員を辞めるなんてもったいないよ!」
といった反応をもらうことが少なくありません。
ぼく自身も、上司や家族に何度か「もったいない」と言われました。
たしかに公務員といえば、一度なってしまえば生涯安泰の恵まれた職業、というイメージがすっかり定着しています。
もったない!というのは、きっとその人のことを真剣に想ってくれているからこそのアドバイスなんですよね。
しかしこの「もったいない」という言葉。
今まさに公務員を辞めるべきか悩んでいる人間にとっては、なかなかパワーのあるワードです。
自分は本当に公務員を辞めてしまっていいのだろうか…。
取り返しのつかないことになるくらいなら、このまま現状維持する方がいいんじゃないか…。
今回は、「公務員をやめるのはもったいない」論についてあれこれと考えてみます。
何がもったいないのか
そもそも「もったいない」というのは、何がもったいないと言っているんでしょうか。
おおよそ、次の2通りの意味があるように思います。
- 過去に費やしたコストがもったいない
- 将来得られる利益がもったいない
過去に費やしたコストがもったいない
一つは、せっかく苦労して(お金をかけて)公務員になったのに、というもの。
公務員になるには公務員試験を通過しなければなりませんからね。
試験勉強に費やした時間やお金や労力は、たしかになかなか大きい。
公務員を辞めるということは、これまで費やしてきたこうしたコストを丸々捨て去ることだとも言えるわけです。
すごくもったいない気がします。
…とはいえ、冷静に考えてみるとこれってちょっとナンセンスですよね。
経済学などでサンクコスト(埋没費用)効果なんて呼ばれる、ありがちな思考のミスです。
過去のコストは、あくまで過去のもの。
公務員を辞めようが続けようが、過去に費やした時間やお金や労力は帰ってこないし、またこれ以上費やされることもありません。
要は「辞めるべきか続けるべきか」という今の判断にはまったく関係のない問題なんですね。
「そんなの考えるに値しないぞ!」と開き直ってしまうのが唯一の解決策です。
本当に大事なのは未来のことですもんね。
将来得られる利益がもったいない
そしてもう一つは、公務員を辞めたらせっかくの恵まれた待遇を今後享受できなくなるぞ、というものです。
いやあ、こちらはまったくそのとおりですよね。
大富豪になってやろうとでも思わなければ、公務員の待遇は文句なく高水準です。
- 倒産や解雇がなく、上がり続ける給与(安定した生活、老後の安心)
- 充実した福利厚生(産休・育休・病休などを簡単に取得でき、その間の手当も手厚い)
- 社会的信用を活用する権利(各種ローンを利用しやすいなど)
公務員を辞めてしまえば、こうした多大な利益を将来得られる権利を、みすみす放棄することになります。
悩ましいことに、この点については明らかな事実でしょう。
まとめると、公務員を辞めるという決断は、
将来得られるはずの待遇面のメリットを手放してしまうという意味において、たしかにもったいない
ということが言えそうです。
もったいないから辞めるべきでないのか
ところが、「もったいないから公務員を辞めるべきではない」のかというと、これはまったく違うとぼくは考えています。
なぜなら「もったいない」というのは主に「安定して金を得られる幸福」の次元での判断でしかないから。
給与も福利厚生も、結局は安定と金にまつわるメリットです。
公務員を辞めようか悩んでる人の多くはきっと、公務員の待遇が物足りないから辞めたいってわけじゃないですよね。
安定や金とはまったく別次元の動機があるのではないでしょうか。
たとえば、
- 公務員の仕事にやりがいを見出せず、毎日がつまらなく感じる
- 職場環境に強いストレスを感じていて、心身に限界がきている
- 公務員でいる限り実現できないような、別のやりたいことがある
といったような。
これらの根底にあるのは、「精神的充実感を得られる幸福」とか、「心身の健康を得られる幸福」とか、そんな感じでしょうか。
いずれにしても、「安定して金を得られる幸福」とはベクトルの違う大きなテーマがそこにはあります。
とすれば、「もったいない」なんてアドバイスは、当人にとってあまり的を射たものではありません。
もったいないからどうした!
今それは大して重要じゃないんだよ!
と、こういうことです。
もったいないかどうかは、公務員を辞めるべきかどうかの決断には直接関係しないのです。
自分の本心が一番大事
思うに、決断するうえで吟味すべきは、むしろ「もったいない」以外の部分であるはずです。
つまり待遇面の利益ではなく、辞めようかとまで思わしめた個人的な動機のほう。
公務員の恵まれた待遇なんて、誰の目にもわかる客観的な要素ですもんね。
周囲の人は主にこの部分を見て「もったいない」といってくれるわけです。
対して、辞めたい動機というのは、当の本人の中にしかなく、ほかの誰にも100%の理解はできません。
自分の内面にだけ、本当に重要な判断材料がある。
辞めるべきかを決定できるような条件が整っているのは、辞めようとしている本人だけだということです。
熟考の末、やっぱり経済的な理由から公務員を続ける決断をされる方もいらっしゃるかと思います。
その場合でもおそらく、あくまで自身の幸福を追求する内面的な自問自答によって絞り出された答えであって、単に「もったいないから」でないはずです。
つまるところは、
「もったいない」なんてアドバイスは大して重要じゃないから、まあ重く受け止めず適当に聞き流そう!
と、なんだか乱暴にも聞こえますが、今回はそういうお話でした。