公務員は自分の職業を隠しがち。自己開示にリスクがつきまとうことの悲しみ

ぼくは公務員を辞めて1年半ほどになる人間ですが、現役公務員の知り合いとも何人か交友が続いています。

ふと気づいたのですが、周囲の公務員の友人たちはみんな、自分が公務員であることを他人に隠す主義なのです。

もちろん、家族や親しい友人には明かしていると思うんですけどね。
まだ関係があまり深くない人とか、知らない人とのその場限りの会話においては、職業を聞かれても「まぁ会社員ですね~」とか言って適当にごまかすわけです。

一方、個人的には在職当時も相手が誰であれ聞かれたら全部正直に話すスタンスを貫いていたんですが、そういう人って意外と少数派なのかもしれません。

ぼくとしても身分を隠したがる気持ち自体は非常に分かるところもあるので、今回は 「なぜ公務員は職業を言いたくないのか」 といった点について考えてみたいと思います。

言いたくない理由

それでは個人の経験も踏まえて、公務員であることを言いたくない理由を挙げてみます。

ちなみに今回は、都道府県庁や市役所などの自治体職員の立場を想定しています。
警察官とか公安系とかだと「業務に支障が出るから言えない」みたいな事情もありそうですけどね、一旦それは置いておきましょう。

公務員一般に広く当てはまりそうな理由としては、主に次の2つかなと思います。

  • 勤務先の情報が伝わりすぎるのが嫌だから
  • 偏見強めの人やアンチ公務員が嫌だから

順に見ていきましょう。

勤務先の情報が伝わりすぎるのが嫌

ひとつには、情報が伝わりすぎることへの抵抗がありそうです。

職業を聞かれて「公務員です」と答えると、だいたいその後の流れとして、
「〇〇市役所とかですか?」
「どういう部署にいるんですか?」

みたいな追加質問が飛んできます。

こういうやり取りに正面から答えていくと、自分の勤務先がかなり鮮明に特定されるんですよね。

平日の日中はここにいるんだ、ということが、たいして仲良くない人にもバレてしまう。

また自治体の動きは連日ニュースでも報道されるので、〇〇市の〇〇課によると…みたいな内容だと、「あの人の仕事だな」となってしまう。

ちょっと具体的な内容に踏み込まれただけで、いきなり匿名性が失われるわけです。

公務員以外の職業なら、結構そのあたりは曖昧なままでも会話を進めやすいですよね。

「アパレル系です」→「具体的には?」→「セレクトショップで服とか小物とか売ってます」→「へぇ~」
とか、
「営業です」→「具体的には?」→「自社製品の新規開拓ですね」→「具体的には?」→「企業を回ってオフィス向けの家電を提案してます」→「へぇ~」
みたいな。

それなりに詳しく説明しても、どこで働いている誰か、みたいな情報までは簡単に漏れません。

一方公務員だと、そういう個人的な情報を守るのが難しいということですね。

個人的な情報が漏れるのは何かとリスクなので、できれば初めから言いたくないというのは納得です。

偏見強めの人やアンチ公務員が嫌

そして何といっても、公務員だとわかったら偏見や侮蔑の目を向けてくる人がいること。
こちらの理由のほうが大きいかもしれません。

悪意の強弱は様々ですが、「公務員」という言葉の印象に引っ張られた勝手なイメージを押し付けられた経験は、公務員の方なら一度はあるのではないでしょうか。

公務員と言ったときの相手の表情やリアクションの時点で、
「あ、この人コミュニケーションがしんどいタイプの人だな」
と察知できちゃったりしますよね。

感覚としては、しんどいタイプの人にはおおまかに2種類がいる気がします。

① うらやましい系

公務員が民間より楽な環境でぬくぬくとハッピーに暮らしていると考えている人です。

露骨な嫌味を言ってくる場合もあれば、悪意なくピュアな目で偏見を語られる場合もあります。

  • 公務員は楽してお金もらえるからいいですよね
  • 民間みたいに頭下げる必要もないんでしょ
  • 毎日同じような仕事して、退屈で嫌になりません?
  • 何かあったらすぐ休めるからうらやましいなあ
  • 定時上がりだから自由な時間いっぱいありそうですね
  • 給料もいいんでしょ、ボーナスいっぱい貰えてさ
  • どうせ安定したご身分なんだから今日はおごってよ

このタイプの偏見をもつ人はかなり多いと思いますね。
初対面の人はもちろん、家族や友人でも該当するケースは多そうです。

まあ 「いやいや全然そんなことないですよ~」 で流せるんですが、これが続くと結構うんざりします。

② アンチ公務員系

それから、公務員という集団を許せないとか、極度に見下しているタイプの人もいます。

面と向かって話していても、結構しっかりめに悪意を向けてこられたりします。

  • 役所勤めの連中って本当に何にも考えてないよね
  • お勉強ばっかりしてきて民間で採ってもらえなかったんでしょ
  • どうせ誰にでもできる仕事しかしてないんだから
  • 公務員みたいな環境にいたら一生成長できませんよ
  • あんなに要らないんだから半分くらいクビにしたらいいのに
  • 公務員上がりの中途ってだいたい使えないんですよねぇ
  • みんなの税金で飯食ってて恥ずかしくないの?

なんだか自分で書いてて悲しくなってきましたが、こんな感じです。

やっぱり給料に税金が使われている(のに満足なサービスが受けられない)点で、反感をかいやすいんですかね。

また公務員は税を徴収したり行政指導をしたりといった立場にあるので、そういう日ごろの関わりの中でも 「おのれ公務員め」 と負の感情が募るのかもしれません。

ぼく

勤務中など特に、どこからか急に現れたアンチに絡まれることがよくありました。

典型的なアンチとの遭遇事例

職業を公言する際、個人的には勤務先の情報がバレることよりも、 「実は相手が公務員嫌いだった」 の事故が起きてしまうことのほうを恐れていました。

公務員をやっている人間からすると前時代的な偏見・先入観のように感じられますが、特にご年配の方などと話すと自然体のアンチ公務員であるケースは意外に多いんですよね。

ぼく自身は、プライベートの生活で激しめのアンチ公務員に遭遇したことって実はあまり思い当たらないのですが、同じく役所勤めをしている友人から聞いた体験談をひとつ好例としてご紹介したいと思います。

友人の証言

友人の身内に不幸があって、親戚一同で会食へ行ったときのこと。
誰かもよくわからない親戚のおばさま2人組との会話にて。

おばA 「仕事は今なにをしているの?」

友人 「公務員をやっています」

おばA 「えー?あなたも公務員になったの?」
おばB 「お父さんも公務員よね?お勉強させられたのね~」
おばA 「じゃあ毎日定時で帰れて、気楽でいいわね~」

友人 「いやぁ、結構残業続きで大変ですよ…」

おばA 「でも真面目だから、早く帰ってもあんまりやることないでしょ?」
おばB 「世間の流行りとかあんまり知らないんじゃない?ジャニーズとか」
おばA 「SMAPってわかる?」

友人 「あ、はい知ってます…」

おばA 「それはわかるんだ~」
おばB 「アハハ!」

友人 「・・・」

みたいなことがあったそうです。

めちゃくちゃ嫌ですね。
自分が言われたら腹立たしくて仕方ないと思います。

友人はこれをきっかけとして、
「公務員をやっているなんてもう言わない」
と強く肝に命じたとのこと。

最近は官公庁の長時間勤務や教員のサービス残業の問題が取り上げられることも多いので、こうした偏見も今後少しは和らいでいく圧力もあるかもしれません。

しかし「全体の奉仕者」という立場上、やはり周囲から批判の目にさらされる構図自体は根本的に避けられず、いわば公務員の宿命として覚悟しておく必要もありそうです。

批判の多くは気にしなくていい

公務員に向けられる偏見には、まったく事実と異なる勝手な推測が多い一方で、実際少なからず当たっている部分というのもあると思うんですよね。

たとえばよくバッシングされるとおり、縦割り行政の硬直性や、怠慢業務が是正されにくい土壌があるのはたしかに大きな課題と言えます。
だから公務員はダメなんだ!と言いたくなる気持ちもわかる。

ただこういう課題を捉えるときには本来、個々の業務レベルでの具体的な分析・批判が不可欠だと思うのです。

行政組織がかかえる構造上の性質が、具体的にどの業務でどんな不利益を生んでいるのか。
問題を解消するためにはその業務のあり方をどう変えるべきか。
業務のあり方を変えたことで新たに生じる悪影響はないか。

一般的なことというのはなかなか言えません。
個別具体のケースにおいて、情報を整理しながら丁寧に考えていく必要がある。

そしてこういうことは、現場で業務にあたっている公務員自身が、意外としっかり考えていたりします。
(たしかに考えていない人もいますけどね)

公務員の業務がとんでもなく広範なジャンルに及んでいる以上、それらをひとまとめに批判するのは無謀で、どうしてもぼんやりとした感情論になりがちです。
「公務員は~」 とか 「お役所仕事は~」 から始まる批判はあまりにも解像度が粗すぎて、もはや批判の体をなしていないんじゃないかというのがぼくの所感です。

公務員や行政の分野にあまり通じていない人ほど、前提知識や具体的な情報が不足しているので、「公務員」というわかりやすくて抽象的な概念をターゲットにして偏見・持論を展開してしまう。

でもそういう批判のほとんどはフワッとしていて的を射ていないものなので、こちらもあまり気にしないのがよさそうです。

ぼく

まあ気にはしなくても、叩かれる時点で嫌ですけどね…

まとめ

というわけでまとめです。

  • 公務員が自分の職業を明かすのは、何かとリスクがつきまとう
    • 勤務先や業務が特定されるリスク
    • しんどいタイプの人に絡まれるリスク(うらやましい系、アンチ公務員系)
  • 公務員に偏見をもった人は意外といろんなところにいる
  • 周囲からの批判にさらされることは公務員の宿命である
  • 公務員批判は的を射ていないことが多いのであまり気にしなくていい

日常会話において仕事の話というのはめちゃくちゃ定番なので、そこにリスクを抱えている公務員はなかなか肩身のせまい思いを強いられるわけですね。

ちなみに記事の冒頭でもちらっと書いたとおり、それでもぼく個人としては 「相手が誰であれ聞かれたら全部正直に話す」 という方針を決めていました。

どうして公務員であることを隠さないのか、というところについてはまた別記事にまとめてみようと思うので、よかったらそちらもご覧ください。