ぼくは普段あまり音楽を聞かないのですが、ときどき心に響いた曲に出会うと、そのアーティストさんの作品を狂ったように聴きあさってその世界観に浸ることがあります。
ここ数年でそうしたハマり方をしたものとしてぱっと思いつくのが、シンガーソングライター・カネコアヤノの音楽です。
人気の曲は色々ありますが、代表曲のひとつといえば『光の方へ』でしょうか。
はい、めちゃくちゃいい曲ですね。
今回は、カネコアヤノの魅力ってどんなところだろう?と自分なりに色々考えていたことや、中でも好きな楽曲について書いてみたいと思います。
音楽に疎いくせしてつらつらと野暮なことを書くのはちょっと気が引けるのですが、せっかく好きなことなので、まあとにかく書いてみたいと思います。
複雑さを受け入れる
彼女の音楽に惹かれたのはたぶん、自分が少し精神的に疲れている人生のフェーズにいたから、という個人的な背景もあっただろうと思います。
カネコアヤノの音楽に通底しているひとつの特徴として、心の中の複雑な部分、曖昧な部分をありのまま捉えて未消化のまま受け入れるようなムードがあるように感じるんですよね。
だから、明るく軽やかな曲調・歌詞の曲にも、その背後にはどうしても振り切れない不安とか悲しみがセットで付属しているように思えてくるし、逆に負の部分をストレートに歌った曲の中にも、どこか小さな希望の種みたいなものが隠れている気がします。
あの独特な声と歌い方がそうさせるんでしょうか。
とにかくそういう内面の複雑さや矛盾がそのまま残されている感じが、弱った心にはすごく救いになるのです。
苦しくて仕方ないときって「なんとかしなきゃ」と必死でもがいてしまいがちだと思うんですが、やばいやばいと腕を振り回している隣に、カネコアヤノは寄り添ってくれます。
彼女はそこで、どうしようもない孤独や悲しみや不安を静かに見つめている。
そんな音楽を聞いているとなぜか少しずつ、自分のそわそわする心もだんだんと沈められるような思いがします。
「わけわかんないまま生きているのは自分だけじゃないんだな」
といった安心感が得られるからかもしれません。
ままならない生活を続けていくということ
カネコアヤノの曲をぐるぐる聴き回していると、一言でいうなら「前向きな諦め」みたいな人生観が浮かび上がってくる感じがして、ぼくはその感覚がとても好きです。
人生には常にぼんやりとした(あるいは切迫した)不安や苦しみが存在していて、その苦しみはどんなに頑張っても消える気配がない。
変わりたくても変われないし、なぜか変わってほしくないところは変わってしまって、いつまでも苦しい。
でも私がどれだけ苦しくても、そんなことは関係なく生活というものは淡々と続いていくんだよな、という視点が提供されているような気がします。
抱えている問題はまったく思いどおりにならないんだけど、ままならない状況をそのまま抱えながら生活をこなしていくしかないんだな、みたいな。
私たちはときに死んだほうが楽だと思うくらい悩むんだけど、悩んでるうちに勝手にお腹は空いてきて、お腹が空いたから仕方なく何かを食べたりします。
で、そのうち眠気がやってきて、寝たらいつものように明日がやってきます。
暗くなったら電気をつけたり、寒くなってきたら毛布を出したり、結局そんな感じでとりあえず日々を送っていくことが、そのまま自分の生活、人生になるんですね。
そして淡々とした割り切れない生活の中にも、たまにキラッと光るような美しい瞬間というのはあって、私たちはハッと心を動かされることがあります。
たとえばキレイな小物を見つけたときとか、海が夕日を反射してきらめいているのを見たときとか。
カネコアヤノはそういう何でもない生活の中の小さな美しさに触れたときの小さな心の動きを表現するのがとても上手だと思うのです。
べつに「こんな美しい世界だから前向きに生きようぜ」みたいなことでもなくって、むしろ美しさに触れることで悲しみが際立ったりもするんだけど、それでも生活が光る瞬間を大切にせずにはいられないような、ここもやっぱり複雑で曖昧な感情です。
彼女の楽曲に触れていると、そんな感情がとてもリアルに身近に体験できます。
複雑で曖昧な、ままならない生活と、その中にある美しい瞬間。
カネコアヤノの魅力は、そういった空気感にあるんじゃないかと思ったというお話でした。
アルバム『タオルケットは穏やかな』より
2023年にリリースされたカネコアヤノの最新アルバム『タオルケットは穏やかな』は、先に述べたような魅力的な人生観・空気感がアルバム全体に取り巻いている作品だと思います。
穏やかな曲調の歌が多いのだけど、力強く歌い上げたり、ノイズ盛り盛りのギターの轟音が挿入されたりと、迫力をもって訴えかけてくる感じもあります。
今回はせっかくなのでこのアルバムに収録されている中から3曲だけ挙げさせてください。
月明かり
風邪をひいて独りになった日には
カネコアヤノ 『月明かり』
今日この町で一番可哀想なのは僕だ、と思う
救われてく僕の psykhe
あの角を超えても 道は続いてく
僕が居なくても
ゆったりと夢の中を漂っているような曲です。
「月明かり」のタイトルもしっくり。
内面の奥にある精神世界を、子どもの自分がひとり孤独にぐるぐると巡っているシーンが浮かんできました。
「救われる」「許される」というちょっと不穏な感じもするフレーズ、終盤のトリップしたみたいなノイズとエフェクトまみれの間奏も印象的です。
こんな日に限って
窓際に飾った プレゼントの猫
カネコアヤノ 『こんな日に限って』
こんな日に限って 綺麗にみえる
私が揺れると 鈴の音が鳴る
悲しみを消すための 傷が絶えない
この曲を聞いていると、一日中ベッドから起き上がれない日に、窓から差し込んでくる沈みかけの太陽に絶望しているときの気持ちをめちゃくちゃ思い出します。
「私が揺れると 鈴の音が鳴る」 ことによって、荒んだ自分と美しい世界が接続していること、切り離せないことを実感して、それすらも煩わしくなっちゃうみたいな。
これも大好きな一曲です。
タオルケットは穏やかな
いいんだよ 分からないまま
カネコアヤノ 『タオルケットは穏やかな』
曖昧な愛
家々の窓には それぞれが迷い
シャツの襟はたったまま
そしてアルバムの表題曲。
上2曲で続いた憂鬱な雰囲気も、まるごとすべて包み込んで前を向かせてくれるようなカタルシスがあります。
まず、MVがとにかく素晴らしいですよね。
カネコアヤノの魅力を煮詰めて凝縮したような、最高の映像だと思います。
生きることに疲れてきたら、とりあえずこれを見て聴いて落ち着こうよ、と言いたくなるような作品です。
以上色々と小賢しいことを言ってきましたが、結局はシンプルに、カネコアヤノの作るメロディー・歌声・雰囲気がとても好き!という話に尽きます。
公式のYouTubeチャンネルからは、その他たくさんの素敵な曲にふれることができます。
よかったらチェックしてみてください↓