コンセプトとアイデアに惚れる大好きなMV(ミュージックビデオ)5選【邦楽編】

ぼくは優れた映像作品をじっくり鑑賞するのが好きです。
色々と種類はありますが、MV(ミュージックビデオ)もその大きなジャンルのひとつ。

自由に構想する映画などとは違って、MVにはまず元となるアーティストと音楽があります。
その楽曲のテンポや空気感の中でいかに視覚的に魅力を引き出すか、というMVならではのテーマがあるわけですね。

人気アーティストの曲をYoutubeで検索すると、優れたMV作品がたくさんヒットします。
そんな中でも個人的にズバ抜けて好きなMVがいくつかあるので、今回はそれを5つピックアップして紹介していきたいと思います。

ぼくは一度ハマると何時間もその作品にどっぷり浸かるタイプで、また定期的に再度見返す時期がきます。
以下はいずれも穴が開くくらい何度も視聴しまくったMVです。

そのくらい魅力的な最高の映像作品なので、皆さんも今一度ぜひ見てみてください。

すごい邦楽MV5選

フェイク / Mr.Children

公開:2007年
ディレクター:丹下紘希

自分がこれまでで初めて映像表現というものに衝撃を受けたのはこのMVだったかもしれません。

まず冒頭の不自然にトリミングされた縦長の画面が独特で面白いですよね。
実は外側の世界があって、これは携帯電話のカメラの映像だったことの種明かしがあります。

その携帯電話をもつのは、全身マネキンみたいな異形の女子高生。
このマネキン人間が映像の中に大量に出てきます。
人間の形をしているけれども、不気味で作り物感があって、個性とかアイデンティティみたいなものが塗りつぶされている感じ。

そしてMVを通して統一されているモノトーン+マゼンタというシンプルな配色が非常にカッコいい。
スタイリッシュで現代的・都会的なムードがあります。

ミラーボールや鏡張りで装飾したステージも、そこで演奏するミスチルメンバーも、脱色されて全体的に現実感を失っています。
その中で唯一マゼンタに着色されて目を引くアクセントの部分は、マネキンとかランジェリーとか口元とか、どれも人間味を帯びて見えるものの結局は「フェイク」の象徴なわけですね。

途中で脈絡なく差し込まれるセクシーな二人組の女性、水しぶきをあげる鮮やかなプールも、得体の知れない感じがキモくて異様に引き込まれます。
意識されているかはわかりませんが、なんとなくキューブリックのホラー映画「シャイニング」で特に有名な、双子の女の子のシーンとか血の洪水のシーンの演出を連想してしまいます。
そういう狂気的な要素が、このMVを一層魅力的にしてくれているように思います。

またなんといっても、サビで顕著に見られる映像が高速で飛びまくるジャンプカットの編集がたまりません。
同じ構図の映像を切り貼りするジャンプカットは作り物感や不自然さが目立つので避けられることも多い手法ですが、まさにそれを主題とする「フェイク」のMVにはばっちりハマってますね。

単純にカットが飛んだり別の映像が差し込まれるだけじゃなくて、一瞬止まったり逆再生で戻ったり、ひたすら変則的に動くので次の映像がまったく予測できません。
いい意味で見ていて落ち着かない、自然と前のめりに見入ってしまうMVです。

特に言及したいシーン

再生位置内容
 1:06 ステージ上の演奏者までマネキン人間に置き換わる瞬間。
ミスチルのメンバーくらいは本物の世界かと思いきや、そこすら異物に侵食されて「いやお前もかい」と、もう何も信用できなくなる演出がサラッとされるのが素晴らしい。
1:55謎のセクシー女性がカメラ目線で「愛してる」と歌詞をなぞるのがクローズアップされる。
現実感のない異物(マネキン側の存在)が急にこちらの世界に混ざりこんでくる感じ。MVや視聴者の存在がメタ的に知覚されちゃってる感じが不気味でぞわぞわする。
 4.08 ラストのサビ。ここからの疾走感あふれる映像が最高。
怒涛のつぎはぎ編集に脳の処理が追い付かず「あぁー何?分からん!カッコいい!」となっているうちにスパッと曲が終わる。

FLASH / Perfume

公開:2016年
ディレクター:田中裕介

PerfumeのMVには素晴らしい作品がたくさんあるのですが、今回はひとつだけセレクトしました。

こちらもモノトーンで洗練されたシンプルさが印象的なMV。
無機質で何もない広い空間で3人が踊るだけ、という構成になっています。

ダンスもわりとゆったりしているパートが多く、一歩間違えれば退屈な映像になってしまいそうなところ。
しかしそれをカメラワークと調光の変化でずーっと魅力的に見せ続けているのがプロの技です。
シルエットだけでばっちりカッコよく映えるPerfumeの所作の美しさが活きていますね。

逆光で影絵のようになる人の影、順光で壁面や床に映る人の影、じんわりと明暗がグラデーションになっている部分。
「光と影のコントラストだけでこんなに美しいのか」という感動があります。
写真界隈では陰影を強調するための表現技法としてあえてモノクロ撮影をすることがありますが、このMVが追及しているのもまさにそういう世界だと思います。

ちなみにこの楽曲は、競技かるたをテーマにした映画「ちはやふる」の主題歌としてリリースされました。
和室で着物を着て百人一首の歌を巡って競う「和」の勝負の世界を舞台にしたお話です。

さきほどの光と影の美しさというのも、やっぱり「和」の美意識ですよね。
このMVのコンセプトはそういう元の楽曲の方向性と役割を視覚的に支えているわけです。

また同時にこの映像の主題となっているのが、「静かな揺らぎの中にある一瞬の激しさ・閃光」みたいなイメージだと思います。
ちょうど競技かるたで、内なるエネルギーが札を取る瞬間にパパっと瞬間的にあふれ出るようなあの感じ。
中国拳法の型のような3人の動きにも、そういう静と動のメリハリが表れています。

光と影、明と暗、静と動。
対立する二つの概念の共存と変化に注目するのは、日本や中国で昔から根付いている「陰陽思想」の考え方です。
陰陽思想は中国拳法が発展するベースにもなり、また日本の能とか茶道とか華道といった伝統文化の哲学にも強い影響を与えました。
それが間接的に今の私たちの「和」の感覚を形作っているんですね。

だからこのMVを見て「和っぽい美しさ」を肌で感じてしまうのは、映像に組み込まれたそういう古来の世界観を、日本人として遺伝子レベルで察知しているからかもしれません。

  • エレクトロサウンド
  • のっぺりと無機質な空間
  • ライトセーバーみたいな光る棒
  • 実写合成のモーショングラフィックス

要素だけ見ればこんなに近代的で西洋的なエッセンスが盛り込まれているのに、根底にちゃんと和が感じられます。
これは(楽曲はもちろんですが)考え抜かれた映像制作の妙があってこそだと思います。

特に言及したいシーン

再生位置内容
 0:37 静から動へ移る瞬間。「火花のようにflash」のflash感がめちゃくちゃかっこいい。
3人の振付が初めて画面内で揃うのがここのパッと腕を上げる部分なんだけど、それがシルエットのみ&一瞬しか映らないのが儚くてたまらない。画としては2:15の「flash」が迫力があってもっと好き。
1:10演武にあわせて幾何学図形のモーショングラフィックスが明滅する。
動きとしては丁寧に、でもエネルギーの余韻がまだじわじわ外界に漏れ出ている感じ。ゆっくり歩いた後から花が咲いていく神様の描写みたいな。
 3:30 最後にいきなりライトセーバーを振り回し始めるパート。
線香花火が終わり際に細い花びらみたいな火花をパパっと光らせてから消える感じがしてエモい。

Fly(feat.79,中村佳穂)/ imai

公開:2017年
ディレクター:橋本麦

これを初めて見たときは、驚きのあまり目も口もぽかーんと開きっぱなしになりました。

いわゆるストップモーションと呼ばれる形式で、静止画を1枚撮影してはオブジェクトをちょっと手で動かして、また撮影して…というのを繰り返して最後にコマ送りのアニメーションを作っています。
ひと昔前の「ピングー」とか「ニャッキ」みたいなクレイアニメと同じ手法ですね。

この作品のすごいところは、やはり何といってもカメラのアングルや画角が1コマずつ変化し続ける演出。
ドローンが飛び回っているかのように、ぐわんぐわんとダイナミックに目まぐるしく展開します。

ストップモーションって数秒の映像を作るのにもめちゃくちゃ時間と労力がかかるので、よくある定点カメラで画角を固定する方式でも十分に大変なわけですよ。(やったことないけど)

それをオブジェクトだけでなくカメラまで動かして、画角まで変えて。
完成系をイメージしながら画を作る想像力と、相当な覚悟がなければ成し得ない技です。
トータルどれだけ時間かかったんだ…?

その制作時間の長さを物語るように、MV中の部屋の明るさや太陽光の色や角度が周期的に変わっていくのがわかります。

本当はやろうと思えば、カーテンは閉め切ってライトで明るさを均一にしたり、後から編集で色補正したり、みたいなキレイな統制もできるはずなのです。
その方がメインのアニメーション自体はスムーズで見やすいものに仕上がるはず。

でも多分あえてそれをやらずに、ノイズみたいな成分として映像に残しているのだと思います。
だからこそ、机の上だけが周囲の時間の流れとは独立しているかのような効果が生まれているわけですね。
まるで誰もいない部屋でゆっくりとしたお菓子たちだけの時間が流れているような。

ほかにも「制作の舞台裏」を匂わせるようなノイズがところどころに(おそらく意図的に)映り込んでいます。

  • 1コマだけ出てきてすぐ消える猫ちゃん
  • 画面が高速で切り替わりまくるテレビ
  • 餅菓子を浮かせるテグスがチラ見え
  • 餅菓子を傾ける支え材がチラ見え

こうした要素があることで、単なる不思議映像には留まらないストップモーションならではの作品の味になっています。
じっくり見返しながら隅々まで観察したくなるようなMVです。

特に言及したいシーン

再生位置内容
 0:40 ちっちゃな餅たちがパッと素早く四方に広がる場面。机に残る片栗粉が「食べ物としての和菓子感」をすごく演出している。
多分1コマずつそれっぽく粉をまぶす手間を入れてるのだと思う。こだわりが細かすぎる。
 0:59 ビシッと三色団子に変身、からの「fly fly fly」の音ハメでエビフライがシューティングゲームみたいに飛んでくるユーモア。そっちのフライ(fry)かい!とツッコミたくなる遊び心が好き。
その流れで1:10には、「fly fly fly」で団子たちが油に突入していく。そっちのフライ(fry)かい!
2:16「フワフワ」の歌詞に合わせてカメラがわずかに寄って、ラップを乗せた空中の大福が絶妙な加減でふわっふわっと揺れる。この繊細で柔らかな動きをストップモーションで表現しているのがビビる。
と思った直後、2:18~花火のフィナーレみたいな壮大なシーンが始まる。ここにきてギアがさらに一段階あがる衝撃。もうすごすぎてしばらく呆然と見つめるしかない。

こんがらがった! / ネクライトーキー

公開:2018年
ディレクター:小名良平

実は最近このMVにどっぷりハマって、動画酔いするほどネクライトーキー×小名さんの作品群を延々とリピートしまくったのが、本記事を書こうと思ったきっかけです。
そのくらい映像表現の楽しさ・美しさ・中毒性にやられてしまいました。

「半透明にした “NECRY TALKIE” の文字を画面下にずっと固定表示しよう」なんて、どういう発想で出てくるんですかね…?
映像はフォトギャラリーのようなコマ割りで配置されるんですが、この “NECRY TALKIE” ありきのレイアウトでサイズと余白がばっちり調整されていて、きれいに調和しています。

なんとなく紙面デザインっぽい画作りだなと思いました。
ほらファッション誌の「VOGUE」とか、表題のフォントと位置は固定で決まっていて、それに合わせて人物やその他の文字を配置しているじゃないですか。
ああいう感じで平面としての構図をめちゃくちゃ意識して映像を組み立ててるので、MVをどのシーンで止めてもバランスのいいデザインが完成しているんですよね。
そのうえでメンバーが活き活きと動くので、そりゃ美しいよなという感じです。

そういう整ったレイアウトを作るためには、演奏者を徹底的に「映像素材」として扱う必要があります。
遠近感とか位置関係とかは一回全部そぎ落として、素材データとしての人物を編集者が自由に拡大縮小したり複製したり組み合わせたりして再構築するわけですね。

だからやっていることはアニメのOP/ED映像の制作に似てる部分があるんじゃないかと思います。
よくアニメには実写映画と違って偶然がない(映っているのはすべて制作者が意図して足したもの)といいますが、このMVもそういった種類の作品なのでしょう。

実際「ここの演出アニメっぽいな~」と感じる見せ方がたくさん出てきます。
そしてそのアニメっぽさというのは、彼らの魅力にものすごくフィットした表現方法だと思うのです。

ボーカルのアニメ声もまあそうなんですが、ネクライトーキーのメンバーっていい意味で寄せ集め感があるというか、一人一人の属性が際立ってませんか?
居酒屋でみんなで飲んでるのを見かけたら「これどういう関係性の集まり?」と思っちゃうような。
全員タイプがまったく違って、みんなその辺を普通に歩いてそうではあって、それぞれ個性と愛嬌があって魅力的。
そういうキャラクター性が創作世界のバンドっぽいです。

このMVの最高なところは、デザイン・映像としての良さはもちろんとして、そういうグループやメンバー自体の魅力をMAXに引き出している手法の妙にもあると思います。

特に言及したいシーン

再生位置内容
 0:13 布の生地とか包装紙にあるパターンイラストのように、小さなメンバーが規則的に配置される。
まさに映像素材を紙面的にデザインして作り上げたシーン。流されながらぴょこぴょこ動いているのがかわいい。
 2:11 ギターを色んな持ち方で弾くシーン。
編集でギターの角度が一定になるように映像を回転させることで、演奏者がパントマイムみたいにギターの周りを動いているように見える。MVの手法の面白みが活きている表現。
2:27ドラムに合わせて映像がネガフィルム状に出てくる。音ハメが気持ちいい。
単に等間隔で表示するんじゃなくて、最新のコマは過去コマの1.2倍ほどの横幅で出てくる。臨場感と変化があって最後はレイアウトもピッタリ。コマ割りのサイズ計算に綿密なこだわりを感じる。

タオルケットは穏やかな / カネコアヤノ

公開:2023年
ディレクター:井手健介

最後はこちらのMV。
以前カネコアヤノについて記事を書いた際にも一度触れた楽曲です。

この作品に関しては、特定の構図や編集技術について「ここがすごい!」と具体的なポイントがあるわけではないのがこれまで紹介したMVたちとは違うところ。

映像としてはかなり単純で、日常の景色を映した様々な短いクリップが曲の三連符のリズムにあわせて淡々と切り替わっていくだけのものです。
全体的にフィルムライクなフィルターとノイズがかなり強くのっていて、ノスタルジックな雰囲気があります。

ただそれだけの映像ではあるのだけど、理屈ではとらえきれない圧倒的なパワーがあるんですよね。
感性を直接揺さぶってくる感じ。魂が思い切りぶん殴られる感じ。
その仕組みをぼくはうまく説明できません。優れた詩やアートが人に理屈抜きの感動を与えるのと、たぶん同じ種類のものです。誰かこのMVの魔力を言語化してほしい。

もちろん映像だけでなく、歌声、歌詞、演奏すべてが調和した一つの作品全体として、そうしたパワーを帯びているのだと思います。
MVの原案は作詞作曲したカネコアヤノ自身らしいのですが、それを実際の映像に落とし込んで作品をこのように昇華させた井出監督はすごい。

ぼくがこのMVを見るたびに強烈に感じるのは、

  • この世界にはどうにもならない不安や苦しみがあふれていること
  • そこに生まれ落ちた人間は大人も子どももみんな各々迷っていること
  • 一人で迷うだけでは苦しいので人は互いにつながったり離れたりしながらもがいていること
  • 過去の人類もみんなそうして世界を生きてきて、その営みの延長線上で私たちも同じように生きていること
  • そういう営みが生まれては消えていくこの世界は美しいということ

みたいなイメージです。
言葉じゃなくて、主観的な実感として自然と湧き上がってきます。
もうどうしても個人的な感覚の話にしかならないのですが、この泣きたくなる感じ、共感してもらえますか?共感してもらえますよね。

ぼくは人生や世界に絶望して沈みきってしまうことがちょいちょいありますが、それでもこのMVに触れると「やっぱりこの世界って美しいな」と思えます。
少しそういう目線で日常の景色を見つめることができるようになります。
精神的な支柱をマジでありがとう。

特に言及したいシーン

再生位置内容
 1:38 横を向く猫ちゃん、からの顔をこっちへ向ける猫ちゃん。かわいい。
散歩をしながら日常を眺める中で一瞬「あっ」と何かに目線が留まる瞬間があるように、一定のリズムで切り替わる映像の中でたまーに2音分の幅をとる場面が混ざるのがグッとくる。
 3:23 一人座るカネコアヤノがこっちを振り返るシーン。
様々な思いを抱えながら美しい世界を穏やかに見つめてきた私たち、をさらに穏やかに見つめてくれる感じ。色んな感情ごとすべてを包み込むグレートマザーみたいな安心感。
3:33サビの終わりに合わせて少しのあいだ走馬灯みたいにザーッと映像が高速で流れる。
この後視線が地面から空の方へ上がるシーンを経て、流れる車窓へ。心の中のもやもやが少しだけ晴れて帰路に着くようなイメージ。たまらん。

まとめ

ということで今回は、個人的に特に大好きなミュージックビデオを5つピックアップしてみました。

  1. フェイク / Mr.Children
  2. FLASH / Perfume
  3. Fly(feat.79,中村佳穂)/ imai
  4. こんがらがった! / ネクライトーキー
  5. タオルケットは穏やかな / カネコアヤノ

全体的な傾向を振り返ると、映像を切り貼りしたコラージュ的な編集をメインにしたものが多かったですね。
あるいはシーンの素早い切り替えを効果的に使ったもの。

MVというと感動的なストーリー展開があるドラマっぽいものとか、予算をかけまくった壮大な映像を楽しむタイプのものも多いのですが、今回のセレクトはどちらかというと映像の構図や配色や視覚的な質感みたいなところに重きを置いた作品ばかりでした。
ぼくが特に感動するツボがそういう部分にあるということなのでしょう。

こうして好きな作品を書き出してみると、普段あまり認識していなかった自分の着眼点・美意識の性質が浮かび上がってきて面白いかもしれません。

今回はどれも邦楽のMVを挙げてみましたが、洋楽のMVでも個人的に衝撃をうけたものがいくつかあるので、ぜひこちらもあわせて覗いてみてください。