コンセプトとアイデアに惚れる大好きなMV(ミュージックビデオ)4選【洋楽編】

以前、邦楽のMV(ミュージックビデオ)の中から特に大好きな作品をまとめた記事を書きました。
MVのストーリー性にはあまり注目せず、特に映像表現の工夫やコンセプト的な部分に注目して傑作を紹介しています。

そして今回はその続きということで、洋楽のMVの中から4つ挙げてみます。
こちらもやはり、初めて見たときに大きな衝撃を受けて何度も見返したものばかり。

わりと有名な作品ばかりですが、知らないものがあればぜひ見てみてください。

すごい洋楽MV4選

Jamiroquai – Virtual Insanity

公開年:1996年
ディレクター:Jonathan Glazer

まずはこちら、傑作MVの代表選手みたいな存在です。
過去さんざん語り尽くされた作品ではあるのですが、なんやかんや良すぎるので何度も見ちゃいます。
もう30年近くも前の映像なんですね…。

動き続ける床の上でダンスをする演出って今でこそたまに見かけますが、元々それを衝撃的に世に広めたのが、ジャミロクワイのこのMVでした。

まず「この仕掛け一本でいくぞ」とMVの構成を打ち立てた監督の発想がすごいですよね。
滑らかにいろんな方向・角度に動く床面、それに合わせて動いたり動かなかったりするソファと、その間を縦横無尽に歩き回る人間。

なんとなく絶妙にアナログっぽい緩急で床が動くのが、不思議な印象をより強めています。
近未来・SF(特にディストピア)っぽい雰囲気なんだけど、ガチガチのマシーン感はなくてむしろ有機的な感じ。
動く床のギミックはすべて大勢のスタッフが人力でやっているらしいので、映像全体に漂うアナログ感にも納得です。

そしてこれ実際に動いているのは床ではなくて、実はまわりの壁や天井や固定カメラの方なんですね。
床以外のすべてが動くことで、画面越しにはまるで床が動いているように見えます。
シーンごとに壁際のソファを壁に連結したり切り離したりして同期をコントロールしているので、オブジェクトごとの挙動が統一されない奇妙な効果が生まれています。

こうした撮影手法としての工夫はもちろん秀逸なのですが、やっぱり結局はボーカル(ジェイ・ケイ氏)の素晴らしいパフォーマンスがこのMVを最高の作品にしている決定的なポイントかと思います。
本当は演者よりも映像全体のディレクション側の方に注目したいんですけどね。
しかしこのMVに関しては、さすがにダンスが圧倒的すぎます。

動く床のギミックの面白みを最大限引き出す、壁やソファの動きとシンクロした身のこなし。ぶつかりそうでぶつからない。ダンス自体が魅力的で見ていて飽きない。
しかもセットの動きに合わせてほとんど全部アドリブで踊ってるらしいんですよね。
アイデア・センス・パフォーマンス、何もかもがすごすぎてたまらないMVです。

特に言及したいシーン

再生位置内容
 0:54 白服のダンサーたちが壁沿いに流れていくシーン。とてもカッコいい。
髪や服がなびいているので、前から風を送ってるっぽい。結局これがどうしてカッコいいのか、どういう発想でこんな画を思いつくのか意味が分からない。何故かここだけ見返したくなる日すらある。
1:55壁際で膝をつき、そこからクルクルくねくね踊りながら画面中央へ戻ってくるジェイ・ケイ氏。
体幹どうなってんの?後ろにも目ついてる?と思っちゃうような変態的な動き。

Daft Punk – Around The World

公開:1997年
ディレクター:Michel Gondry

続いてこちらも90年代の作品で、近未来・SF感(を超えた何か)があるMV。

なんというか全体的に意味不明すぎて、口を半開きにしながら感性で味わうしかない謎の映像です。
セットも衣装も細かく見れば見るほどちゃちいもので、ひとつひとつの要素を拾うとダサいものばかり。
曲の歌詞もひたすら同じ調子で「Around the world, around the world」しか言っていません。

それなのに画面全体を眺めた時に、その細部のダサさもまるごと含めて、なんだかよくわからないけどめちゃくちゃカッコいいMVに仕上がっています。不思議です。
(「いや全然ダサいぞ」という意見もあるしれません。)

このMVの魅力はやはり楽曲のリズムにピッタリ合ったキレのあるダンスが重要なエッセンスになっているはず。
撮影時より再生速度を上げた映像だと思うのですが、それによってさらに機械っぽさを増しています。

奇抜な衣装の5種類のキャラクターが各4体ずつ。
画面に映りこむタイミングを考えると、彼らは楽曲を構成する音をそれぞれ象徴する存在なのだと思われます。

  • 長身マネキンジャージ男:ベース
  • カラフルレオタード女:キーボード
  • 包帯グルグル巻き女:ドラム
  • ドクロ全身タイツ男:ギター
  • 触覚ヘルメットロボ:ボーカル

電子音が規則的に繰り返されるのに合わせて、彼らもまたれぞれ固有の動きを淡々と繰り返します。
キャラクターによってダンスはバラバラですが、同じ舞台上で密集したり分散したり、時には動きがシンクロしたりして、全体として大きなひとつの秩序を形成しています。

細かく見ると秩序立っているけど、もう少し広く見ると混沌としていて、でも全体を引きで見ると世界の胎動みたいなものだけが浮き出てくる感じ。
こういう単純な動きの規則同士が相互作用することによって流動する閉じた複雑なシステムって、なんかグッときちゃいますよね。

お経のように「Around the world, around the world」とリピートしているのも、そういう感覚とマッチしてだんだん心地よくなってきます。
MVが演出する世界はまさに「世界そのもの」って感じがして最高にクールです。

特に言及したいシーン

再生位置内容
 0:57 ボーカルパートが始まる瞬間。
照明がふわっとついてメインシステムが起動するような演出がカッコいい。ちょうどカラフルガールズがカメラの方を振り返ってリズムをとっていて、さっさとはけていく感じも好き。
2:10カメラが引いていって、窓のようなフレームが画角に入るシーン。
この奇妙な世界がひとまとまりの小さな空間にすぎないことが分かる。システム全体を外側から俯瞰する感じ。宇宙へ出て、閉じた系としての地球を見渡しているみたいな。

Bonobo – Cirrus

公開:2013年
ディレクター:Cyriak Harris

こちらも意味不明系の作品。というかもはや意味なんてない不条理MVです。
楽曲を引き立たせるための手段というより、楽曲からインスピレーションを受けて、このMVそれ自体を目的として制作された映像作品ではないかと思います。

冒頭の十数秒は何の変哲もない日常のビデオクリップが並びますが、ここは素材のライブラリ一覧みたいな役割。
0:18くらいからは出てきた映像素材を反復させたり伸縮させたり組み合わせたりして、コラージュアートを動画化したような不思議な世界が広がります。
そしてその支離滅裂さは動画が進むにつれてエスカレートしていって、後半にはもう万華鏡みたいになっています。

映像制作を担当しているCyriak氏は、元々こういう系統の作品を多く公開しているクリエイターなんですよね。
(グロテスクで気持ち悪い作品も多いので苦手な方はご注意)

彼の映像作品はどれもアイデアが面白くて狂気的でキモくて大好きなのですが、その中でも特に個人的に一番好みなのが今回挙げた「Cirrus」のMVです。

一貫してシステマチックで金属っぽくて機械的な、淡々と工業製品が産出されていくような感じ。
国家とか気象現象のように要素が連動しすぎて全体像がもはやわからない、予測できるようでできない「複雑系」の感じ。
音楽全体に漂っているそういう雰囲気を、見事にビジュアル化しているように思います。

今見るとなんとなくAIが機械学習を元に自動生成した映像っぽい雰囲気もありますね。
細かく見ると一応部分的に因果関係は成立してるんだけど、部分同士のつながりのリアリティとか必然性がことごとく破綻していて、バグったようなわけのわからない世界が組み上がってしまう。

それを意図して理性的に、ちまちまと地道に映像を切り貼りして作っているのが信じられません。
まともな人間が正常に世界認識をしていたらこんな作品できるわけないだろ、みたいな。
彼の唯一無二の才能が光るMVに仕上がっています。

特に言及したいシーン

再生位置内容
 1:00 このときの画面構成、秩序とカオスのバランスが絶妙で大好き。
特に後ろでフタがぱかぱか開けられて女の子が次々と出てくる部分。車の往復運動や少年が弾むリズムとも同期していて、こういう大量生産装置があるんじゃないかと思うくらい機構化されている。
2:58映像がグッと寄って不条理から抜けるところ。いきなり画面が落ち着く。
わけのわからない悪夢からようやく脱して、でもまだ寝ぼけているときみたいな。千と千尋の神隠しのラストシーンのような、「さっきまでのは何だったんだ」感が良い。

OK Go – I Won’t Let You Down

公開:2014年
ディレクター:関和亮

面白アイデアMVを量産していることでおなじみのバンド「OK Go」
こちらの作品はロケ地が日本となっており、映像監督はPerfumeのMVなどで知られる関和亮さんが手がけています。
(冒頭でPerfumeの3人も友情出演していますね。)

いや実を言うと、ぼくはあまりOK Goのミュージックビデオを素直に感動して見られないんですよね。
なんか「奇抜なコンセプトと企画力でバズらせようぜ」みたいな部分が強くて、楽曲がおまけというか、あまり一つの作品としてバチっと完成していないようなイメージがあるのです。

このMVに関しても正直その印象は受けてしまうのですが、ただそんなことをごにょごにょ言ってる場合じゃないくらい内容がすごすぎて、「すごい洋楽MV」となるとさすがに挙げざるを得ませんでした。
膨大なエキストラを集めて、こんなに大規模な演出をまさかの5分間ワンカットですからね。
思いついても普通は怖すぎて「よし撮ろう」とはならないじゃないですか。

素朴な室内でダサめのダンスをするところから始まって、そこから屋外へ出て、どんどん視界がひらけていって、ラストは上空からの壮大な景色へ。
ドローン的な何かでの空撮ですが、雲がかかるくらいなので相当な高度を攻めていますよね。

作品の最初から最後にかけて変化する画面の極端なスケール差が、それだけで感動を生んでくれます。
しかも画角が広がる一方ではなくて、上空と地上を行ったり来たりするのも挑戦的。

そしてなんといっても、真上からの映像で展開されるマスゲーム(集団行動)がめちゃくちゃキレイです。
黒・白・赤でバランスよく統一された服や傘のカラーリングも完璧。

  • 膨大な没テイクによる時間経過を思わせる夕方の西日(1:10 ~)
  • 位置確認のための色とりどりのマーカーが貼りまくってある地面(1:10 ~)
  • タイミング合わせの「イチ、ニ、サン、シ…」のかけ声が聞こえるシーン(1:48 ~)

こういった裏の労力が垣間見える演出からも、作品にこめられた情熱とパワーが伝わってくるようです。
(現場の進行とかギャラの配分とかどうなってたんだろう…とか無粋なことまで考えちゃいます)

映像それ自体をパーフェクトに仕上げるのではなく、その制作背景まで含めてひとつの体験として楽しませてくれる感じ。
その点については 好きなMVまとめの邦楽編 でご紹介した「Fly(feat.79,中村佳穂)/ imai」にも近い部分がありますね。

「言うのは簡単だけどとても実現できそうにないアイデア」に果敢に挑戦してしっかり実現させちゃうところが、やっぱり企画のプロの仕事なんだなと思い知らされました。

特に言及したいシーン

再生位置内容
 1:30 ダンサーの配置と振付が計算され尽くしててすごい。衣装が一番意味をもって映えるシーン。
傘をお尻に敷いて、それを足でホールドしながらズリズリ下がって、腕と足を開いたり閉じたり。
これが上空からは幾何学的かつ有機的に美しく見えるってどうして分かったんですか。
3:48人がもはや電光掲示板と化してしまうフィナーレのシーン。「思いついてもできない」の最上級。
何度見てもさすがに信じられず笑うしかない感じになってしまうインパクトの強さがある。

まとめ

ということで今回は、個人的に特に大好きなミュージックビデオを洋楽の中から4つピックアップしてみました。

  1. Jamiroquai – Virtual Insanity
  2. Daft Punk – Around The World
  3. Bonobo – Cirrus
  4. OK Go – I Won’t Let You Down

前半2つは30年前の殿堂入り作品、後半2つもなんやかんや10年前なのでひと昔前の作品といった感じでしたね。

MVを探す以外の目的では普段あまり洋楽をリサーチしないので、自分の中の情報更新が遅めなのは否めません。
ぼくが知らないだけで、最高に感性を揺さぶってくれる映像作品がまだまだありそう。
これはというのがあればぜひ教えてください。

また邦楽の中から好きなミュージックビデオをピックアップした記事も公開しているので、よろしければこちらも覗いてみていただけると嬉しいです。